



代表電話が一番鳴る時間帯は、どの病院・クリニックでもだいたい似ています。診療開始前後、午前外来の終わる前、夕方外来の前後、休診日の前後。このタイミングで、受付はすでに別の仕事で埋まっています。
来院患者の受付、カルテ準備、会計、紹介状や証明書など書類のやり取り、病棟や検査室からの呼び出し。こうした仕事をこなしながら、同時に代表電話のコールが重なっていくので、「物理的に手が足りない」状態が生まれます。
現場では、受付スタッフが目の前の患者対応をしながら背中でコール音を聞き続け、やっと電話を取ったときにはすでに何コールも鳴っていて、相手の声が少し険しい。
「診療時間内なのに、全然電話がつながらないですね」
こうした一言が積み重なり、スタッフの気持ちはすり減っていきます。
だからといって、電話のために人を一人増やすのは現実的ではありません。受付専任を増やせば人件費は確実に増えますが、電話が本当にパンクするのは一日のうちの一部の時間だけです。
問題は「電話という手段そのもの」ではなく、「代表電話に来る用件のすべてを、人だけでさばこうとしていること」にあります。ここに、同時に何本でも受けられるAI電話を組み合わせると、この構造そのものを変えにいくことができます。
※ここでいうAI電話とは、患者さんがいつもの代表番号に電話をすると、最初にAIが応答して用件を聞き取り、予約・各種案内・必要な転送などを自動で行う仕組みのことです。
AI電話に任せるといっても、特別なことをするわけではありません。患者さんは今まで通り、病院・クリニックの代表番号に電話をかけます。違うのは、最初に受けるのが人ではなくAI電話になる、という点だけです。
AI電話は、これまで受付スタッフが聞いていた内容を、同じ順番で聞き取っていきます。
「どの診療科か」
「初診か再診か」
「希望の日と大まかな時間帯」
「名前と生年月日」
こうした情報を会話の中で整理し、予約台帳や予約システムに登録します。病院によっては、電子カルテや予約システムと連携して、自動で予定枠に入れていくこともできます。
ここで一番効いてくるのは、「同時に何本でも受けられる」という点です。午前の混雑時間帯に電話が10本重なっても、すべての電話にとりあえずAI電話が出られます。
「呼び出し音だけ鳴り続けて誰も出られない」
という状態をかなり減らせます。
もうひとつ大きいのが、「どんな電話がどれくらい来ているのか」がデータで見えるようになることです。
何曜日の何時台に予約が集中しているのか。
予約変更・新規予約・検査問い合わせがどの割合か。
今までは受付スタッフの感覚に頼っていた部分が、数字として見えるようになります。
この二つがそろうことで、
・「つながらない」という不満が減る
・受付スタッフの「電話に追いかけられている感じ」が薄れる
・予約枠や人の配置を、感覚ではなくデータを見ながら組み直せる
という状態に近づいていきます。ここまで来ると、「AIを入れた」というより「代表電話の仕組み自体を作り替えた」という感覚に近くなります。
実際に、病院やクリニック、自治体でも、AIを使った電話対応に踏み出している例が出てきています。ここではイメージしやすいように、医療機関と自治体それぞれのケースを取り上げます。
千葉県八千代市の「浜野胃腸科外科医院」では、代表電話に集まる問い合わせや検査説明の電話が多く、スタッフが何度も同じ説明を繰り返していることが課題になっていました。診療時間や検査の流れ、持ち物など、ある程度パターンが決まっている問い合わせをAI電話で受けるようにした結果、スタッフが直接受ける電話は目に見えて減りました。
その分、対面での説明や診療のサポートに回せる時間が増え、
「電話に追われている感覚がやわらいだ」
という声も出ています。代表電話の一次対応をAI電話に切り替えたことで、現場での負担減がしっかり実感されているケースです。
もう一つは自治体の例ですが、「電話が集中する現場でAI電話がどう役に立つか」を考えるうえで参考になります。茨城県潮来市では、庁内の業務課題を洗い出したところ、多くの部署で「電話対応業務」が共通の悩みとして挙がりました。開庁時間内しか対応できず、「なかなかつながらない」という市民の声があり、職員も本来業務が止まるほど電話対応に追われていました。
そこで、対話型のAIによる電話応対を導入しました。特に「水郷潮来あやめまつり」期間中の実証実験では、AIが約530件の電話に対応し、そのうち91.1%に自動で回答できています。例年は2〜3人の職員が電話に張り付きになっていたところを、来場者対応に回せるようになり、「精神的な余裕が生まれた」と職員は感じています。市民からも「24時間いつでも聞けるようになった」と好評で、AI導入に対する強い不満は出ていません。
病院と自治体で電話の内容は違いますが、
・特定の時間帯に電話が集中する
・同じような問い合わせが繰り返される
・電話対応に人が取られて、本来やるべき仕事に手が回らない
という構造はよく似ています。人でなくていい会話をAI電話が先に受け、人でないと困る会話にスタッフの時間を集中させる。病院・クリニックでも同じ発想で組み立てることができます。
いきなり代表電話のすべてをAI電話に任せる必要はありません。むしろ最初は、できるだけ小さく始めた方が現実的です。
最初にやることは、「今、何に困っているか」を紙に書き出すことです。
いつ電話が一番鳴っているのか。
どんな用件が多いのか。
本当は受付スタッフに何を優先してほしいのか。
この三つだけでも書いてみると、「AI電話に任せるとラクになる部分」と「必ず人で受けたい部分」が見えてきます。
次に、AI電話に任せる範囲を決めます。病院・クリニックでよくあるのは、次のような切り分けです。
・診療時間や休診日の案内
・アクセスや駐車場、持ち物などの基本案内
・再診の予約、単純な予約変更
・枠が決まっている健康診断や検査などの予約受付
こうした部分はAI電話に任せやすい領域です。逆に、
・症状の相談
・セカンドオピニオンに関する相談
・強い不安や怒りが予想される電話
といった内容は、最初から人に回す前提にしておきます。
そのうえで、今まで受付スタッフの頭の中だけで運用してきたルールを、一度棚卸しします。
初診枠と再診枠をどう分けているか。
検査が必要な診療の予約をどう扱うか。
「今日はもう受けられない」と判断する基準はどこか。
こうした判断基準を言葉にしておくことで、AI電話側のシナリオも現場の実態に合わせやすくなります。
最後に、院内・患者さんへの案内です。スタッフには、「AI電話が受けた内容をどこで確認するのか」「人に回ってきた通話にはどう対応するのか」を共有します。患者さんには、院内ポスターやホームページなどで、「なぜ電話の仕組みを変えるのか」「何が便利になるのか」を短く伝えます。
実際に運用を始めた後は、「AI電話がうまく対応できなかったパターン」を少しずつ直していくイメージです。数週間から数か月かけて細かな調整を重ねていくうちに、受付スタッフから「最近、電話でバタバタする日が減ってきた気がする」という感想が出てくるところを一つの目安にすると分かりやすくなります。
AI電話の話をすると、ほぼ必ず同じような不安が出てきます。代表的なものと、現実的な考え方を整理します。
「高齢の患者さんは使いこなせるのか」という不安については、最初の案内をできるだけシンプルにすることがポイントです。
「◯◯クリニックです。予約や時間の確認の方は、このままゆっくりお話しください」
この程度の一言であれば、多くの高齢の方でも問題なく話し始めてくれます。どうしても難しい方のために、「途中でスタッフにつなぐ」ルートを残しておけば、完全にAI電話だけにする必要もありません。
「患者さんが冷たく感じないか」という点については、AI電話の声や話し方を柔らかく調整することもできますし、そもそも長い保留音で待たされるより、「すぐに応答してくれる」こと自体が安心につながるケースも多くあります。人が応対する場面では、人だからこそ伝えられる言葉を使い、AI電話の部分は「待たせないこと」に振り切る、という役割分担も一つです。
「症状相談やクレームもAI電話に任せるのか」という点については、任せるべきではありません。予約や定型的な案内はAI電話に任せ、症状相談や強い不安・怒りを含む電話は人で受ける。この線引きを最初に決めておくことが重要です。AI電話側で声の調子や言葉づかいから「人に回した方が良さそうだ」と判断したらスタッフに転送する、という設計も可能です。
「本当に元が取れるのか」という疑問については、代表電話のためだけに受付専任を一人増やした場合の人件費と比べる必要があります。特に、電話のために残業が発生している病院・クリニック、午前や夕方だけ電話の負荷が跳ね上がるところでは、AI電話を組み合わせた方が、時間と気力の両面の負担を下げやすいケースが多くなります。
完璧な状態からスタートさせる必要はありません。
「まずは、つながらない時間帯を減らす」
「まずは、再診の予約だけAI電話に任せてみる」
といった一歩目のゴールを決めて進めていく方が、現実に合った進め方になります。
代表電話がつながらないストレスを抱えたまま受付が疲弊していくのか、AI電話に一部を任せて、少しずつ院内の空気と患者さんの体験を整えていくのか。選択肢としては、この二つのどちらに近づけるかという話になります。
病院・クリニックの現場では、「人員を増やす」ことには限界があります。一方で、AI電話を組み合わせると、「人でなくてよい会話」をAI側に預け、「人でないと困る会話」に人の時間を集中させることができます。浜野胃腸科外科医院のように代表電話の負担を減らしてスタッフの表情を取り戻した例や、潮来市のように繁忙期の約530件の電話をAIが受けて自動回答率91.1%を出した例を見ると、「病院の代表電話とAI電話を組み合わせる」という方向性は、すでに机上の空論ではありません。
「うちの病院でも本当にできるのか」と感じたら、まずは現状の電話の悩みを紙に書き出してみてください。そのうえで、医療機関向けのAI電話サービスに、「自院の代表電話のうち、どこまでAI電話に任せられそうか」「どんな始め方が現実的か」を相談してみる。資料請求やオンラインデモを一度見てみる。
そのくらいの小さな一歩からでも、代表電話の「つながらない」問題と受付の残業は、確実に変え始めることができます。
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