



行政機関の窓口、特に運輸支局のような専門的な手続きを行う場所では、繁忙期になると来庁者が殺到します。
道順や必要書類の確認といった定型的な質問が集中し、職員が対応に追われる「案内渋滞」が常態化していました。
これを解消するため、音声対話とタッチ操作に対応したAIサイネージの導入が決定しましたが、初期段階では現場特有の壁がありました。
「高齢の来庁者に機械の操作は無理ではないか」「結局、使い方が分からず職員が呼ばれるなら、最初から人間が案内した方が早い」。
こうした現場職員の懐疑的な声や抵抗感は、システム導入において避けては通れない道です。しかし、この懸念は、その後の「現場主導の運用改善」によって劇的に覆されることになります。
2025年8月の東京運輸支局での稼働を経て、システムは契約上の全支局へ展開されました。
現在、その利用実績は全国合計で月約2.4万回に達しています。
この「月2.4万回」という数字は、全国の窓口から1日あたり約800回分の「定型的な質問対応」が消滅したことを意味します。各支局の1拠点あたりに換算しても、案内係の職員が1日数十回から百回近く対応していた「〇〇窓口はどこ?」「この書類で合っている?」といったやり取りがAIに置き換わった計算です。
これにより、繁忙期に発生していた物理的な行列が緩和され、職員は本来集中すべき「審査」や「複雑な手続き対応」に専念できる環境が整いました。利用率の高い支局の成功パターンを横展開することで、全国どこでも均質な案内が可能になっています。
AIサイネージが現場の職員に受け入れられ、利用実績が急増した最大の理由は、システムを設置して終わりにせず、利用データに基づいたUI(操作画面)の改善を続けた点にあります。
運用開始当初、確かに操作に迷い途中で諦めてしまう来庁者も見受けられました。
そこでログデータを分析した結果、運輸支局を訪れる多くの事業者が「住所コード」を用いて手続きを進めたいという強いニーズを持っていることが判明しました。
このデータをもとに現場の定例会で議論を重ね、検索の入り口を「住所コード検索」を中心に再設計しました。
来庁者の実態に合わせてメニューを統合し、専門用語の文言を見直した結果、利用者の離脱率が大幅に低下しました。
現在では、質問の意図をAIが汲み取り、平均3ステップ以内で回答へ到達できるようチューニングが進められています。
現場の課題とデータが結びついた瞬間に、AIは単なる機械から「頼れる相棒」へと変わったのです。
運輸支局のDXは、AIサイネージの設置だけでは終わりません。今後予定されているOCR申請や自動受付機の導入を見据え、さらなる進化が計画されています。
QRコード連携による「持ち帰れる案内」 これまでは紙で配布していた案内図を、AIサイネージの画面上にQRコードで表示し、来庁者のスマートフォンに取り込んでもらう仕組みを強化します。
これにより、大量に消費されていた紙のコストと環境負荷を削減できます。
来庁者にとっても、窓口を離れた後に自分のスマホで案内図を確認できるため、施設内で迷うことがなくなります。
アナログな庁内掲示物とデジタルのAIサイネージを組み合わせることで、案内効率はさらに高まります。
Q1. 導入しても高齢者などは使いこなせますか?
A1. はい、問題ありません。音声入力やタッチ操作に対応しているため、キーボード入力が苦手な方でも直感的に話しかける感覚で操作できます。利用状況を分析してメニュー配置を最適化し、誰でも平均3ステップで回答に到達できる動線設計を行っています。
Q2. 地域や支店ごとに案内内容を変えることは可能ですか?
A2. 可能です。本事例でも、支局ごとに学習内容を個別に調整しています。全国共通のFAQと、その地域特有のローカルルール(庁舎配置や地域独自の手続きなど)を組み合わせることで、各現場に最適な案内を実現しています。
運輸支局におけるAI導入事例は、システムを入れて終わりではなく、利用者の行動データに基づいてUIを変化させ続けることこそが成功の鍵であることを示しています。
繁忙期は毎年必ずやってきます。同じ案内を繰り返し、本来の業務が進まないことによる職員の疲弊や、来庁者の待ち時間によるクレームをこれ以上放置することはできません。
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