




整形外科の外来は、朝から晩まで電話が鳴り続けます。
午前は高齢の再診患者からの予約・変更が多く、午後はリハビリやスポーツ外傷、仕事帰りの患者からの問い合わせが重なりがちです。
受付スタッフは、目の前の患者対応と電話対応を同時に回さないといけません。
その結果、診察室から見ると受付は常に慌ただしく、電話も鳴りっぱなしに見えます。「これはもう人を増やすしかない」と感じて求人を出しても人が来ない、来ても定着しない、という状態になりがちです。
多くの院長はこれをひとまとめに「人手不足」と呼びますが、細かく分解してみると「同じ時間帯に集中する電話」が大きな原因になっているケースがかなりあります。
つまり本当の姿は、「一日じゅう常に人が足りない」のではなく、「ピーク時だけ物理的に手が足りなくなる」という状態です。
ここを仕組みで吸収できれば、「人をもう一人雇う」以外の選択肢が見えてきます。
最近は、クリニックの電話の入り口にAIを挟むケースが増えています。イメージとしては「受付スタッフの前に、AIがもう一人立っている」状態です。
ここで言う「AI電話」は、患者さんの声をそのまま聞き取り、内容に応じて予約や案内、人への取り次ぎを自動で行う仕組みのことです。
流れ自体はシンプルです。
まずクリニック代表番号にかかってきた電話を、最初にAIが受けます。患者さんは「明日の午前で空いている時間を知りたい」「リハビリの時間を変えたい」「初めてなんですが予約は必要ですか」など、ふだん受付で話している内容をそのまま話すだけです。
AIは内容を聞き取り、再診やリハビリの予約変更なら日時を確認して処理まで進め、診療時間や持ち物、アクセスのようなよくある質問なら、あらかじめ用意した回答を読み上げます。胸の痛みや転倒直後など緊急度が高そうな内容は、そのまま人のいる受付につなぎます。
電子カルテやレセコンと直接つながっていない場合でも、「だれが・いつ・どんな用件で電話してきたか」を整理したメモをメールや管理画面でスタッフに渡すところから始められます。
最初から完璧な連携をめざす必要はなく、「受付スタッフが電話口で聞き直している内容を、先にAIに聞いておいてもらう」レベルでも負担はかなり変わります。
人手不足に悩むとき、「受付の仕事を全部AIに置き換える」ようなイメージを持ちがちですが、現実的にはそうなりませんし、そうする必要もありません。
受付でしかできない仕事はたくさんあります。来院した患者さんの表情を見て声をかけること、保険証や紹介状の確認、レントゲン室やリハビリ室への誘導、会計の説明など、人がいたほうが明らかにスムーズな仕事は多いです。
一方で、AIに向いているのは「言葉で済む反復的なやり取り」です。予約の日時調整や診療時間・持ち物の案内、よくある問い合わせへの回答など、電話口だけで完結する話は、AIが先に受けてしまったほうが効率的です。
受付の前に長い行列ができているのに、電話対応まで同じ人が背負うのは、どう見ても設計として無理があります。そこで「受付は人のまま残し、電話だけAIに任せる」という分担が効いてきます。
インタビュー事例の中でも、電話や受付まわりをAIに任せているクリニックの動きは参考になります。
たとえば小山中央診療所では、待合スペースのサイネージとAIを組み合わせて受付案内や定型的な問い合わせ対応をAIに任せています。インタビューの中で「定型的な問い合わせをAIが代わりに受けることで、年間でおよそ数百時間単位の業務削減につながっている」という話が出ており、スタッフ一人分の勤務時間に近いインパクトが生まれています。
また浜野胃腸科外科医院では、クリニック向けのチャットボットと受付さくらさん、アバター接客さくらさんを組み合わせ、受付案内や診療メニューの説明、予約まわりのFAQをAIに任せています。患者さんの案内をスムーズにしながら、少人数でも回しやすい体制を作れているという評価が語られています。
診療科目こそ違いますが、「受付と電話の一部をAIに任せて、人の時間を空ける」という設計は、整形外科にもそのまま当てはめやすい考え方です。
整形外科でAI電話を導入すると、まずピーク時間帯の電話本数を目に見えて減らせます。
例えば一日あたりの電話が50件だとして、そのうち再診予約やリハビリの時間確認が半分を占めるとします。この25件をAIが受けてくれるだけで、「今すぐ人が取らないといけない電話」は残り半分に絞られます。受付が一人の体制でも、「常に鳴りっぱなし」から「鳴るタイミングがはっきりする」状態に近づきます。
次に、受付スタッフの心理的な負担と離職リスクを下げられます。患者の列と電話が同時に押し寄せる時間帯が短くなれば、「いつも追い詰められている感じ」が和らぎます。残業や中抜け対応も減りやすくなり、「ここなら続けられそうだ」と思える環境に近づきます。
さらに、「電話がつながらない」ことによる患者の不満も抑えられます。AIが24時間受け付ける形にしておけば、診療時間外でも予約変更やよくある質問には対応できます。「何度かけても話し中」という不満が積もりにくくなります。
採用コストの目線で見ても、「人を一人増やす」のにかかる費用は小さくありません。求人広告の掲載料や紹介料だけで数十万円になることもあります。一方で、AI電話の月額費用がその一部で済むのであれば、「まずはAIでピークを削ってみる」というのは十分に“採用の一手”になり得ます。
電話をAIに任せるといっても、「何でもAIで完結させる」必要はありません。むしろ最初に線引きをはっきり決めておくほうが、安全です。
AIが最後まで対応しやすいのは、再診やリハビリの予約・時間変更、診療時間や持ち物の案内、アクセスや駐車場の案内といった、パターン化された問い合わせです。こういった内容は、シナリオを組んでおけばAIが一人で完結できます。
一方で、症状が重そうな相談や手術前後の不安、クレームに近い電話などは、AIが途中まで話を聞いて内容を整理したうえで、人にバトンを渡したほうが安全です。AIは「聞き取りと整理」「優先度付け」までを担当し、本当に判断が必要な局面でスタッフが出ていく形にします。
「全部AIにしない」という前提を最初に決めておくと、院長としても安心して任せやすくなります。スタッフ側も、「AIに任せっぱなしにされる」のではなく、「自分たちは判断とケアに集中してほしいと思われている」と分かるので、受け止め方が変わります。
電話をAIに任せている医療機関では、共通して次のような変化が起きています。
午前中の混み合う時間帯に、受付カウンターで直接取る電話の本数がはっきり減ります。AIが再診予約や時間変更、リハビリの時間確認などを先に受けてくれるので、「今すぐ人が出ないといけない電話」が絞られてくるからです。ピークの1時間に10本かかってきていた電話のうち、6〜7本をAIが受けられるようになれば、受付スタッフが直接対応するのは3〜4本になります。この差は現場の体感としてかなり大きく、「常に電話の音に追われている感じ」から「合間に電話に出る」感覚に変わります。
先ほど触れた小山中央診療所のように、定型的な問い合わせをAIが受けることで年間で数百時間単位の業務削減につながっているケースもあります。整形外科でも、再診予約やリハビリ確認をAIがどこまで肩代わりできるかによって、同じようなインパクトを狙うことができます。
受付スタッフからは、「目の前の患者さんをお待たせすることが減った」「電話が鳴りっぱなしの音に追われる感じが少なくなった」といった声が出やすくなります。結果として受付まわりの雰囲気が落ち着き、患者の側から見ても「慌ただしさ」が緩和されます。
院長の立場から見ると、「求人を出しても来ない」という行き詰まり感が和らぎます。人を探す前に、AIでどこまで電話を一次対応できるかを設計しておくことで、「今いるスタッフで回せる状態」に寄せていけるからです。
いきなりAIのサービス選びから入るより、先に現状をざっくり可視化しておくと判断が早くなります。最初の一歩としては、次の三つだけ押さえれば十分です。
ひとつ目は、直近数日の電話を思い出しながら、「予約・変更」「リハビリの時間や持ち物」「アクセス・駐車場」「その他の相談」といった大まかなカテゴリに分けてみることです。正確な集計でなくても、体感ベースで構いません。
ふたつ目は、その中から「すべて人でなくてもいいもの」を線引きすることです。多くの整形外科では、再診とリハビリの予約まわり、診療時間とアクセスの案内あたりからAIに任せるケースが多くなっています。
みっつ目は、AI電話サービスのデモを一度見て、「自院のシナリオにどこまで合わせられそうか」を確認することです。自院の診療時間や休診日、リハビリ枠の考え方にどこまで沿えるかを見ながら、「まずはここから任せる」という範囲を決めていきます。
その上で、少人数の整形外科でも運用しやすい設計になっているAI電話サービスを候補に入れ、導入前の相談で自院に合うかどうかを詰めていく流れが現実的です。
医療の現場では、「人で回す」運営から「仕組みで回す」運営への転換が避けられなくなっています。特に受付スタッフの採用が難しくなっている整形外科では、電話対応をどう設計するかが、そのまま働きやすさと患者満足度に直結します。
電話そのものを止めることはできませんが、「電話の入り口をAIに任せる」ことで、限られた人員でも回せる形に近づけることはできます。求人を出し続ける前に、一度「電話の仕組み」を見直してみる価値は十分にあります。
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